授乳のひととき
夢中で遊んでいるとき、ふっと我にかえったような表情をしたかと思えば、「ふえーん」とスイッチが入り、むずがる息子。そのタイミングでおっぱいを口元に持っていくときれいに舌で絡めて力強く吸いはじめます。こめかみがこくこくとリズミカルに動き、おっぱいを吸うことが赤ちゃんのあごの発達にいかなる効果があるかは一目瞭然です。
8ヶ月ころから小さな紅葉のような手をおっぱいに添える仕草が出てきました。たっぷりと母乳が湧き出ているときは、うっとりした表情で静かに目を閉じて、口の中にあふれるお乳を恍惚とした表情でごくんごくんと一途に飲み込んでいきます。
かと思えば、片手で片足をつかんでゆーらゆーらと動かしたり、足でクッションや私の腕を蹴ったり。遊びながらの授乳タイムも息子にとってはとっても幸せな時間なのでしょう。
息子が泣けば、以心伝心、母である私のおっぱいにツーんと信号が送られ、すぐさま催乳感覚が湧き起こります。
ふしぎだなあ。このおっぱいは私のものであって、息子のものであり、私だけのものではないんだ。
息子が夜間、まとまった時間眠るようになった5ヶ月ころ、最初はおっぱいがどんどん作られていて、カチカチに張って困ったものです。でもそれから数日もすれば、いつの間にかおっぱいは息子の欲するリズム、量に合わせるかのように、夜間はそれなりの量しか製造されなくなりました。
息子がほしがるときにほしがるだけ。新鮮な産地直送のおっぱいがいつの間にかできあがっていたのです。
9ヶ月に入り、私たち母子の間でお乳という目に見える絆がいつか解かれる日がくることを意識するようになりました。いつの間にか腕に抱く息子がずっしりと大きくなり、手足も私の上半身から大きくはみ出るようになっています。卒乳の日を想像しただけで涙がこみ上げてくる、こんな自分に出会えたのも息子を産んだからこそ。
母にたずねると、私自身、自ら自然とおっぱいを吸わなくなったそうです。「さあ、今日が最後のおっぱい」なんて決めつけないで、私と息子と2人が醸し出す阿吽の呼吸でおっぱいの絆がやわらかくほどけていったらいいのにな、と思っています。